身分証明書は、持っている人にとっては財布の中の小さなカードだ。けれども発行を待つ人にとって、その一枚は移動や仕事、行政手続きに関わる大きな存在になる。カメルーンの生体認証を伴う身分証の手続きでは、申請時に本人情報を登録することと、完成したカードを受け取ることは同じ段階ではない。
指紋や写真などの情報を集める技術は、本人確認の精度を高めるために使われる。しかし、登録機器が新しくなったからといって、審査、印刷、配送、受領までの時間がすべて短くなるとは限らない。利用者の側から見ると、手続きの「完了」は役所のデータベースに名前が載ることではなく、必要なときに証明書を使えることだ。
この候補では、特定の日の受領窓口に実際に列ができたことを示す一次記録がまだ必要だ。制度上の遅延を、目撃した行列に置き換えてはいけない。それでも、この題材が映し出す逆説は鮮やかだ。自分が自分であることを示すために、自分以外の誰かが発行する証明を待つ。列が確認できたなら、その列の先にあるのは紙やプラスチックではなく、社会のなかで行動できる自由だ。
