1970年代、コートジボワールの屋外診療所で、村人たちが天然痘ワクチンを受けるために列をつくった。世界保健機関(WHO)の写真資料は、場所、年代、待っていた目的を短いキャプションで特定している。建物の待合室ではなく、屋外に設けた接種地点へ人々が順番に進む場面だった。
天然痘根絶計画では、常設病院へ来られる人だけを対象にしても感染の鎖は切れない。都市から離れた地域へ接種班と器具を運び、その場で臨時の診療動線をつくる必要があった。屋外診療所の列は、医療施設が住民を待つのではなく、医療サービスが住民のいる場所へ移動した結果である。
WHOのページは正確な村名、人数、待ち時間、使用した接種器具を示していない。写真だけから気温や会話を描くこともできない。したがって、ここで扱えるのは、村人が1970年代のコートジボワールで屋外接種を待ったという直接記録と、根絶計画における移動型接種の意味である。
恒久的な病院なら、列は建物の運用に従う。臨時の屋外診療所では、列そのものが受付、順番、接種地点を結ぶ簡易な施設になる。テントや壁が少なくても、人が一列に並ぶことで診療の入口が生まれる。世界から一つの感染症を消す計画は、こうした一日限りの入口を各地につくる仕事でもあった。 接種班が別の地域へ移れば、診療所としての形は消える。それでも接種記録と免疫は残る。常設施設を建てずに短期間だけ列を生み、その列を終えたら次の地域へ進むことが、根絶計画の機動力だった。
