1977年、ソマリアのモガディシュで、メッカ巡礼へ向かう人々が予防接種券を待った。WHOの写真キャプションが記録しているのは、注射を受ける瞬間ではなく、その前段階である。巡礼者はまず、接種手続きへ進むための券を受け取る順番に並んでいた。
大勢が国境を越えて同じ時期に移動する巡礼では、感染症対策と渡航手続きが重なる。予防接種は個人の健康だけでなく、移動先へ病気を運ばないための公衆衛生措置でもある。接種券は、誰が手続きの対象となり、どの順番で処理されるかを整理する小さな媒体だった。人の列を、番号や紙の記録へ変換する装置とも言える。
資料は巡礼者数、待ち時間、券を受け取った後の接種場所を説明していない。券の様式や確認方法も不明である。だから、列の全工程を推測で埋めることはできない。直接確認できるのは、1977年のモガディシュでメッカ巡礼者が接種券の発行を待ったことだ。
この列の意外な点は、目的地が遠く離れた聖地でありながら、待っていたものが一枚の行政的な券だったことである。大規模な移動は、祈りや交通だけでは成立しない。健康確認を一人ずつ記録する地味な手続きが、巡礼の出発点に置かれていた。 接種券を配る窓口は、医療行為と渡航資格の間に置かれていた。券を得ても巡礼は始まらず、接種や移動が続く。列の先頭は目的地ではなく、長い手続きの最初の関門だった。紙の券は、次の医療工程へ進む順序を目に見える形にした。
