2016年、コンゴ民主共和国の首都キンシャサ。人口の多いマシナ地区の黄熱病ワクチン接種会場では、人々が順番を待っていた。世界保健機関(WHO)の現地報告は、そこで町の呼びかけ役が列に向かって伝えた注意を記録している。妊娠中の人や、生後9か月未満の子どもを連れた人は接種の列に加わらず、蚊に刺されないよう身を守ってほしい、という内容だった。

黄熱病は蚊によって媒介される感染症で、流行を防ぐには多くの人への速やかな接種が重要になる。WHOによると、同年5月26日に始まったキンシャサ州とコンゴ中央州での接種活動では、6月2日時点で約194万8千人が接種を受けていた。約987の接種会場に約2千人の接種担当者が動員されたと報告されている。対象地区外からも多くの人が来た。一方、世界的なワクチン在庫は逼迫していた。

大きな数字の背後で、現場には小さな確認が積み重なる。赤十字のボランティアは接種カードを確認し、すでに接種済みの人へ重複して打たないようにしていた。ここで列に並ぶことは、誰もが同じ処置を受けるという意味ではなかった。人によって接種の適否が違い、限られた資源を届ける順序にも配慮が必要だったのだ。病気から守るための列なのに、その列から離れるよう呼びかけられる人もいる。公衆衛生とは、人数をさばくことだけではなく、一人ずつ異なる条件を見落とさない仕事でもある。

接種を待つ場所で感染予防を呼びかけるという矛盾は、大量接種の難しさそのものだった。病気を防ぐために集まった人々を、会場でも安全に離して進める必要があった。

WHOの記録が残したのは、接種者数だけではない。キンシャサのマシナで、人々が順番を待つ列に対し、妊婦と生後9か月未満の乳児は列に入らないよう呼びかけた。列は予防の入口であると同時に、接種できない人を別の方法で守る案内の場所でもあった。