空のガスボンベは、空だから軽いとは限らない。金属の容器を家から運び、補充できる場所を探し、帰りには中身の入った重さを持ち帰る。2020年のベネズエラでは、家庭用調理ガスの不足と、ボンベを持って供給を待つ住民についての記録が候補に挙がっている。
ガスがないと、困るのは料理だけではない。何を作れるか、いつ食べられるか、別の燃料を使えるかという、暮らしの細部が変わる。待つ人が家事や仕事に使えたはずの時間も、供給を得るために費やされる。容器を持って並ぶ姿は、品物の不足が人間の身体にまで重さを移すことを示している。
ただし、全国の燃料事情を一つの列で代表させることはできない。地域ごとに供給の仕組みも、受け取り方も違い得る。順番は到着順だったのか、事前の名簿で決まったのか。並んだ末に全員が受け取れたのか。こうした違いこそ、その現場でしか書けない部分になる。
候補の記述だけでは、2020年のどの町の、どの配給地点の列なのかを確定できない。写真や報道の原資料が確認されるまでは、人数や待ち時間を付け足さない。ここで描きたいのは「忍耐強い国民」という決まり文句ではなく、夕食の火をつけるために誰かが引き受けた、目に見えにくい労力である。
