2026年5月26日、タイ東北部ナコーンラーチャシーマー県ダーン・クン・トット郡のクルンタイ銀行支店前では、開店を待つ列に、持ち主の姿がない靴が並んでいた。靴だけではない。水のボトルや、噛みタバコの道具を入れるかごも、順番を示す印として地面に置かれていた。人々は近くの日陰に移り、座って朝食をとりながら、窓口が列を受け付け始めるのを待った。
地元紙『タイラット』によれば、この日は政府の支援事業「タイ・チュアイ・タイ・プラス」の登録・本人確認手続きの2日目だった。個人情報の訂正、電話や電話番号の変更、SIMカードの紛失、アプリの暗証情報が分からないことなど、オンラインだけでは済まない事情を抱える人々が銀行へ向かった。デジタル手続きに不慣れな高齢者もいた。午前4時には到着していた人がいる一方、銀行側が受付を始めたのは午前7時30分。待ち時間を靴に任せたくなるほど、身体には長い朝だった。
ただし、この方法は美談だけでは終わらなかった。靴を一時的に履きに戻したり、空いた隙間へ別の靴を置いたりして、誰が先だったかをめぐる口論が起きたという。75歳の女性は、家族と午前4時から来て朝食もとらず、手続きの難しさを訴えた。受付が始まると入口周辺は混み合い、銀行は5人ずつ案内する方式に切り替えた。
行列は、一人が立ち続ける代わりに物を置けば成立する――とは限らない。順番には、その場の全員が認める約束が必要だからだ。そして、靴が映し出した本当の問題は、人々の奇抜な発明ではない。スマートフォンで済むはずの手続きが、ある人には夜明け前の銀行行きになるという、同じ制度の二つの顔だった。
靴が場所を守る列では、人は日陰や別の場所へ動けても、到着順は道路に残った。履物は整理券より身近で、持ち主を周囲が識別できる順番札になった。
